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さいき社会保険労務士事務所

            メールマガジン 202505号

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確かな知識と経験、
その上に乗せる「等身大の愛と情熱」で
「生産性が高く離職率の低い職場づくり」
を実現する「さいき社会保険労務士事務所」。
月イチの情報発信です。

―本号の記事――――――――――――――――――――――

 令和7年税制改正法案成立、
 今年から変わる「扶養」の条件を解説します。

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昨年の総選挙以降議論が続けられてきた
いわゆる「年収百〇十万円の壁」の件、
税制改正法案が4月に成立したことにより
一旦の決着を見ました。

これにより、本年令和7年中の収入分から
所得税の税額の計算、また扶養親族として
認められる年収のラインが変わることになります。

本稿では、特に影響が大きい「扶養」の枠組みの
変化を解説すると共に、「税の扶養」と混同される
ことの多い「社会保険の扶養」についても併せて
述べたいと思います。

(国税庁WEBサイト)
https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm

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(1)「税の扶養」と「社会保険の扶養」の違い

税と社会保険(健康保険・国民年金)の2つは
所管が財務省と厚生労働省に分かれるため
その「扶養」の概念、認定方法からして
かなりの違いがあります。

扶養として認められる被扶養者の年収額が
異なるのは勿論ですが、最も大きな違いは
その年収額を「いつからいつまでのもの」で
カウントするかにあります。

税の扶養 → その年の1月1日から12月31日迄の
       収入で「その年の扶養」を認定

社会保険 → 「その日からの収入」が向こう1年
       続くものと仮定して年収を算定し
       「その日からの扶養」を認定

税の扶養は年末調整や確定申告で年単位の集計を
した上で結果的に「令和〇年は扶養対象だった」
と認定されるものである一方、
社会保険の扶養は「今日、会社を退職したので
明日から夫の扶養に入ります」といった形で
日単位で変動するものになります。

ここのところ、社会保険労務士のお仕事をして
いると非常に多くお問い合わせいただくところ
ですので最初に述べさせていただきました。

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(2)令和7年からの「税の扶養」のライン

昨年までは一般に年収103万円までが家族を扶養に
入れるためのラインと認識されてきましたが、
この「103万円」と認識されていたラインが
今年から「123万円」に変わります。

厳密に言うと、「給与収入しかない対象者の場合」
年収から給与所得者控除65万円(去年迄は55万円)
を引いたものである「所得」が
58万円以下(去年迄は48万円以下)となる場合に
扶養家族として認められることになります。

※対象者に事業収入がある場合は
その所得(=事業収入マイナス経費)も混みで
「所得58万円以下」であることが条件になります。

※対象者が老齢年金を受給している場合も
一定の控除を経た後の所得額を加算する必要が
ありますのでご注意ください。

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(3)「配偶者特別控除」のライン

配偶者は他の親族と異なり、税の計算上は
「配偶者控除」の対象として別枠で扱われています。

「配偶者控除」のラインは扶養親族と同じく
年収123万円になりましたが、
配偶者にはその延長線上の「配偶者特別控除」も
あります。

この「配偶者特別控除」も合わせると、
年収160万円までは同額の税控除を受けることが
できるようになりました。
(昨年迄は150万円迄でした。)

※「配偶者特別控除」は配偶者の年収約201万円を
上限に、年収額に応じた所得控除を受けられる
ものです。

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(4)ほか税制改正について

上記のほか本改正では
大学生年代(年末時点で19歳~22歳)の扶養親族
への特別控除である「特定扶養控除」が対象者の
年収ライン、控除額とも大幅に拡大されています。

また、今回の各種法改正の一部には財源の都合上
所得税(国税)のみを対象とし
住民税(地方税)には適応されないものがあります。

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(5)社会保険の「扶養」のライン

大きな意味で社会保険での扶養には
「健康保険」の「扶養」(3親等内親族対象)と
「国民年金」の「国民年金第3号被保険者」
(配偶者対象)の2つがありますが、
対象者の年収条件に違いはありません。

どちらも
① 年収が130万円未満であること
 (60歳以上又は障害年金受給者は180万円未満)
② 年収が被保険者本人の半額未満であること
 (実務的には半額以上でも認められる事が多い)
が条件になります。

従って、「配偶者を社会保険の扶養に入れたまま
できるだけ世帯収入を増やしたい」という場合、
配偶者年収上限値は「130万円未満」になります。

ただし、配偶者が従業員数51人以上の事業所に
勤務している場合では、年収要件では106万円
ペースとなった時点で配偶者自身で社会保険の
被保険者となるよう別途義務付けられていますので、
今回の税制改正の「103万円→123万円」の税扶養
ラインの変化は「扶養に入ったまま働く」選択肢
を取り続ける配偶者の多くにはあまり意味がなく、
年収106万円以下で働き続ける方が
引き続き多くなることが予想されています。

一方で、政府はこの社会保険の扶養認定ラインの
解消(主婦が社会保険の扶養入りよりも収入増を
優先するようになること)を
国内の労働力不足解消や家計の可処分所得増加の
鍵と見た上で昨年より助成金の支給を始めており、
(今回の税制改正だけでなく)今後も何らかの
法改正が続いていくものと思われます。

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(6)社会保険の「扶養」手続きの注意点

自己申告制の要素が強い税の扶養と異なり
(税務署のネットワークが強いが故ですが・・)、
社会保険の扶養の手続きでは、状況に応じ各種書類
の提出が求められるケースが多々あります。

新入社員やその家族が入社後すぐに通院を予定
している場合は、事前に必要書類の提出を要請し、
入社当日には手続きを行えるよう準備をしなければ
なりません。

主な必要書類は下記になります。

〇対象者が別居している場合

 ・対象者の収入証明(給与明細3ヵ月分等)
 ・仕送りの証明(金融機関の通帳の写し等)

〇被保険者本人が年間所得1000万円以上の場合

 ・対象者の収入証明(給与明細3ヵ月分等)

〇勤め先が「協会けんぽ」ではなく
 「健康保険組合」に加入の場合

 ・健康保険組合指定の各種書類
 
 ※健康保険組合はサービスが充実していたり
  保険料が比較的安価である一方、
  必要書類が多く審査も厳しい傾向にあります。

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以上、「年収百〇十万円の壁」の件、
税と社会保険の双方を簡略に述べさせていただきました。

昨年の定額減税に続いてのやや複雑な税改正となり
情報の周知やオペレーションの構築・確認など
事業所の給与計算ご担当者様のお仕事が煩雑になる
ことが予想されますが、
弊社としましても皆さまのお手間を極力省けるよう
様々な方策を検討して参りますので、
お気軽にお声掛けをいただけましたら幸いです。

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